はじめに

一億総活躍という言葉にあるように、高齢者でも病気や障害があっても、いつまでも社会参加ができる世の中の到来が報じられています。しかしながら、加齢やストレスにともない認知機能をはじめ様々な機能低下から、心身に不調をきたしたり生活に支障が出たりすることがあります。そして、その結果自立した生活の維持が難しくなる場合があります。

たとえば、高齢者が地域から孤立して会話の機会や活動の機会を失うと、廃用症候群により認知機能が低下することは有名です。同様に「ひきこもり」も脳の前頭前野の機能低下(注意力、記憶力、遂行力などの低下)をきたすことがわかっています。また、育児や介護により社会との関わりが少なくなって孤立した状態になる場合も認知機能の低下が予見されます。

認知機能は、認知症や高次脳機能障害、発達障害、統合失調症、うつ病などの医療や支援において重要な概念ですが、介護や育児、ひきこもりなど私たちの身近にある社会課題とも深く関係があるものです。

認知機能を身近なものに

私たちは、五感を通して外部から入ってきた情報から、物事や自分の置かれている状況を認識し、言葉を自由に操って表現したり、お金の計算や管理をしたり、新しい友人の名前やお店の場所を記憶したり、問題解決のために手段を考えたりしながら、日常生活を送っています。

例えば、新しく商品を購入するときには、「どのメーカーのものが売れているのか」、「性能はどうか」等の情報収集と分析をします。そしてショップに行って、店員とやりとりをして、最終的にどうするかの判断をします。
この一連の過程には、様々な『認知機能』が関わっています。私たちは、『認知機能』なくしては社会生活を営むことはできません。

『認知機能』は、「注意」「記憶」「遂行機能」といった基礎的な神経認知機能を指す場合が多く、車を運転する、買い物をする、乗り物に乗るといった日常生活の行為だけでなく、地域・職域など社会性を適切に維持しながら生活していく上でも必要な機能です。

<主な認知機能>

記憶力 ものごとを忘れずに覚えておき、必要な時に取り出す力
計画力 その場の状況に合わせて最適な計画を考え、準備し、行う力
注意力 大切なことや必要なことに気づいて入手し、意識を集中させ、持続する力
見当識 現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握している力
空間認識力 物体の位置・方向・姿勢・大きさ・形状・間隔など、物体が3次元空間に占めている状態や関係を、すばやく正確に把握、認識する力

 

認知機能の詳しい説明は「認知機能とは」のページをご覧ください

早期発見により適切な医療につなげる

認知機能の低下は、加齢やストレス、病気や障害によって起こります。日々の生活の中で、継続的に記憶力や注意力の低下が続く場合には、医療期間を受診し相談することが大切です。普段との違いに気づき、早期に受診するためには、日頃から自分自身の認知機能の特性を知り、状態をモニタリングしておくことが大切です。

高齢期では、認知機能の特性と経時変化を把握し、脳の変化の予兆を掴むことは、認知症の予防と早期発見のために大切です。「軽度認知障害(MCI)」やその前段階である「プレ・クリニカル期」における認知機能の低下に気づき、認知症の予防に取り組むためにも、日頃から認知機能について把握することがとても重要だと言えます。

認知機能に関係する疾患の詳しい説明は「認知知機能と疾患」のページをご覧ください

プレ・クリニカル期

疾患における超早期の段階で、例えばアルツハイマー病の場合にはアルツハイマー病の病理変化はあるが認知機能 は正常な時期とされています。

 

生活機能維持のために自身の認知機能をセルフモニタリングする

認知機能は、毎日の生活の中でも精神状態や体調によって変動するため、日々の健康チェックのひとつとして認知機能を自分自身でモニタリング(セルフモニタリング)することが、社会生活をマネジメントしていくうえで重要です。

例えば、朝起きて認知機能をチェックしたところ、いつもより注意力や計画力が低下していることがわかった場合、「今日はいつもよりも念入りに予定を確認しよう」とか「メールを送信する前にもう一度見直そう」など、ミスをしないように心掛けることが可能になります。また、「今日は無理をしないでおこう」とか「慌てない、急がないようにしよう」と心掛けることで、精神の安定にもつながります。

このように、心身の状態によって変動する『認知機能』をセルフモニタリングし、必要な環境調整や対処法を知ることは、日常の生活の維持や、社会とのコミュニケーションを良好かつ円滑にしていくことにつながります。なお、『認知機能』は通常目に見えるものではありませんが、『認知機能の見える化』によって、セルフモニタリングを容易にし、生活に役立てることが可能になります。

認知機能を心理学的階層の視点で必要な対処法を考える

神経心理ピラミッドは認知機能を中心とした心理学的機能を階層的に捉えたもので、前頭葉機能を模式化したものです。
一番底辺には、精神的・心的エネルギーが位置し、神経疲労すなわち精神的な疲労感の存在は、それより上位機能の各種に影響を与え、例えば抑制の困難(イライラ感)、無気力(意欲のなさ)、注意・集中、情報処理や記億にも悪影響を及ぼします。

私たちは、仕事の段取りが覚えられないときや、スケジュールの管理ができないときに、記憶力が衰えたと考えがちです。そして、対処法としてメモ帳やスケジュール表などの整理や整備を行おうとします。しかし、物事の覚えられなさの背景には、実は極度に疲労した状態であったり、やる気がなくなっていたり、あるいは物事に集中できない状態になっていることがあり、それらが原因で記憶力が低下しているケースが少なくありません。
このような場合には、メモ帳やスケジュール表の整理よりも、神経疲労の改善に努め、休息をとったりリフレッシュできることを行い、まずは心身の状態を整えることが大切です。

この神経心理ピラミッドを用いた考え方は、高次脳機能障害のリハビリテーションで用いられています。私たちは日々の生活の中で、心身の状態と認知機能を『見える化』し、どのような対処をすることが生活機能の維持に必要となるのかを考えることに応用することができます。

自身の認知特性を知ることで良好なコミュニケーションを構築する

認知特性とは、(視覚や聴覚など)感覚器から入力された情報を記憶したり、脳の中で理解したり表現したりする能力のことで、記憶力、コミュニケーション能力、集中力など多岐の能力について関わりがあります。

私たちはそれぞれ、見た方が理解しやすい「視覚が優れた人」、聞いた方が理解しやすい「聴覚が優れた人」、文字や言葉の扱いが得意な「言語の処理能力が優れた人」など、個々に得意・不得意があります。情報のインプットからアウトプットまでの脳での情報処理の過程には、個性や個人差があります。

例えば、『自分の感覚を大切に受け止めてから、表現する』ことを特徴にする体性(身体)感覚が優位な人は、ゆったりとしたテンポでのコミュニケーションになりやすく、返答も遅くなりやすい傾向があると言われています。一方、中には『感じたことや思ったことが、すぐに口からでてくる』ともいます。

認知特性は集中力にも影響を及ぼします。例えば、耳から聞くことに集中しやすく電話のほうが理解がしやすかったり、目で見ることに集中しやすくメールのほうが理解がしやすいなど、人それぞれに特性があります。集中のしやすさやしにくさの原因が、視覚や聴覚など、どういう感覚器や情報によるものかのかは、認知特性をアセスメントすることで確認することができます。

自分自身の認知特性を知ることで、環境調整を図ることが可能になり、良好な社会生活の維持につながります。

認知特性の詳しい説明は「認知特性」のページをご覧ください

われわれを取り巻くさまざまな社会環境は,高齢期だけでなく人生全体において認知機能に影響を及 ぼしており,これはヒトが社会的な群れで生きてい くように進化し,他者との関係を発展させ,維持させる機能を有する “社会脳” を持ったことに関連している
(Grossmann & Johnson, 2007 ; Seeman et al., 2011).

運営主体

認知機能の見える化研究所・認知機能の見える化推進協議会 設立準備会

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「認知機能の見える化プロジェクト」は、人それぞれが持つ特性である「認知機能」を可視化し必要なケアや対処(セルフマネジメント)を可能にしていくため情報提供活動です。