高齢化が進む中で、わが国の介護政策は在宅介護を推進する方向に進んでいますが、虐待や介護離職などが社会問題になるなど、要介護高齢者を自宅で介護することは介護者にとって精神的にも身体的にも負担であることがわかります。

介護保険制度における要介護者又は要支援者と認定された人は、下記のグラフでわかるように、平成25(2013)年度末で約570万人となっており10年間で約200万人で増えています。

 

要介護者の認知機能は認知症発症リスクがあるため早期発見のためのアセスメントは必要とされていますが、介護する側の家族の認知機能については調査したものがありません。

ただ、介護は終わりが見えないこともあり、将来に対する不安や社会からの孤立により抑うつ傾向になることは様々な調査研究で報告されています。

 

 

家族介護者と抑うつの関係

高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして介護保険制度が2000年4月から導入され、利用者、サービス事業者ともに年々増大し続けている一方で家族の介護負担は大きく、主たる介護者の5割超が抑うつ状態であるという報告もあります。(谷向知,老年社会科学,34(4);511-515,2013)

また、障害を有する要介護高齢者の主介護者を対象に抑うつの有病率を調査した結果,介護を行っていない同世代と比較し2倍以上の有病率であったという報告があります。(S Tennstedt, et al,J Aging Health February,4(1): 58-76.1992)

抑うつと介護負担感とは関連がある(一柳歩美ら,日本看護学会論文集38:187-189,2008))、また身体的虐待と主介護者の精神的健康との間に有意な関係が認められたことが報告されています(土井由利子ら,日本公衆衛生雑誌,47(1):32-46,2000)。

抑うつ傾向群と非抑うつ群の認知機能を比較したものでMMSE(ミニメンタルステート検査)には有意差が認められなかったが、主観的もの忘れ尺度には有意差が認められ、抑うつ傾向群は非抑うつ傾向群よりもの忘れをより自覚しているという報告があります。(村田伸ら,保健の科学,59(1):63-68,2017)

介護保険サービスの利用と家族介護者の抑うつ症状の推移について調査をしたものでは、短期入所や通所介護を継続して同程度利用している場合には、利用していない場合に比べて、介護者の抑うつ症状が「良好」な推移をたどる確率が高いことが示されたが、こうしたサービス利用による介護者の抑うつ症状経験効果は弱いものにとどまっていることから、サービス供給体制をより充実させることが課題の一つと考えられるとの報告があります。(菊澤佐江子,厚生の指標,4,8-16,2016)

介護者の慢性ストレスと血圧の関連

高血圧は認知症の発症リスクのひとつですが、要介護高齢者を支える家族介護者は心血管疾患発症リスクの高い年代と一致するケースが多くあります。

家族介護者の血圧に関する調査として、ストレスが心拍や血圧を上昇されたことや、感情表出の少なさや抑うつが血圧上昇に影響したなどの報告があります。(Shaw WS et al, J Psychosom Res, 54(4):293-302,2003)

介護による慢性ストレスが結会う上昇に影響することを示唆した報告があります。(Shaw WS et al, J Psychosom Res, 46(3):215-227,1999)

日本で行った調査研究では、介護による慢性ストレスと血圧の因果関係は見出せなかったとの報告があります。(桜井志保美ら,保健の科学,59(6):423-429,2017)

介護者の社会的孤立

介護者の社会的孤立は、核家族化や高齢化にともない増えており、その発現や要因について様々な報告がされています。

介護者の7割が60歳以上の高齢者であり、高齢の夫婦で介護をする老老介護のケースが増えている。(厚生労働省;平成25年度国民生活基礎調査,2016)

介護者における社会的孤立は在宅介護が困難性を高める要因であり、認知症高齢者の介護者に社会的孤立がある。(佐藤順子ら,老年精神医学雑誌,22(6);699-708,2011)

高齢介護者の社会的孤立には、地域活動への参加や経済的状況よりも、さらに家族(同居・別居)からの支援に対する満足度や、在宅でも可能な家族以外の人とのコミュニケーションが影響する。(永井眞由美ら,日本地域看護学会誌,20(1):79-85,2017)

介護者における社会的孤立は在宅介護がうまく機能しなくなる要因のひとつである。(山口豊子ら,滋賀医科大学看護ジャーナル,8(1):55-60,2010)

介護者における社会的孤立は高齢者虐待の要因に成りうる。(高﨑絹子,日本認知症ケア学会誌,2(2):193-198,2–3)

介護離職

介護離職ゼロ、のスローガンのもとで介護休業法の改訂・・・・など、経団連などの社会的な取り組みが行われていますが、無理な仕事と介護の両立により介護うつになり離職するケースは少なくありません。

介護離職予防の取り組みに対するアンケート結果(経団連)

介護と仕事の両立を実現するための効果的な在宅サービスのケアの体制(介護サービスモデル)
に関する調査研究(みずほ総研)

仕事と介護の両立に関する企業アンケート調査(平成24年度:厚生労働省)

介護離職者は増えているものの、看取り後の精神不安やビジネススキルの不足など再就職にはいくつかの課題があり、さらに雇用政策においても病気や障害などの就労移行支援の対象にならないという問題もあります。

ひきこもりと介護

 

ひきこもりと認知機能の関係の詳しい説明は「認知機能と社会生活『ひきこもり』」をご覧ください。