認知特性とは、目で見る、耳で聴く、鼻で嗅ぐといった五感を中心とした感覚器から入ってきた様々な情報を記憶したり、脳の中で理解して表現する能力で、主に記憶力、コミュニケーション能力から集中力まで関わっています。

これらの情報処理の方法は個々人の「認知特性」によって異なるため、人と会話をしたり、メール、ツイッター等のSNSでやりとりするといった場合に、コミュニケーション(意思疎通)が上手くいかない原因になることがあります。

このように日常の場面で意思疎通がうまくいかないケースは誰もが経験していることです、自分自身の認知特性についてよく理解している人は意外に少ないようです。

人は感覚器官を通じて、外部から受ける情報のうち、視覚を通じて得る情報量は、約8割と言われていますが、聴覚からの音声情報や言語(文字情報)、図形情報、イメージ情報など、様々なかたちで情報を獲得することになります。

 

たとえば、他者からの説明の際に、「私は文字ばかりのスライドだと理解できない」「音声だけの情報だと聞いているうちに内容を忘れたり、イメージできなかったりする」「図や写真だけの説明だと情報が足りないように感じる」というように同じものを見ても、理解した内容や反応が違う場合があります。

聴覚的な処理が苦手であるために、聞いただけでは意味が分からないけれど、視覚的な処理が得意で、図や絵をみれば課題が解決できる人もいます。

脳の構造で説明すると、音声情報は、「音声 –> 耳 –> 聴覚野 –> 言語野(ウエルニッケ野 -> ブローカー野) –> 前頭野」、視覚情報は、「文字 –> 目 –> 視覚野–> 第39野、第40野(ここで音の情報へ変換)言語野(ウエルニッケ野 -> ブローカー野) –> 前頭野」という流れで処理されます。

認知特性は、(視覚、聴覚、触覚等の五感に違いが)生まれながらにある程度決まっており、それが生活環境の中で伸びていくので、大きく変えることは難しいと言われています。

日常生活の中で、この認知の偏りはどのように印象を持つかということに影響を与えるとともに、人はそれぞれ違う感覚(優位性)と感度を持っているために認知の違いが生じると言われています。(岡南, 天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイスキャロル,講談社,2439,2010)

◎暮らしのヒント・支援のポイント ~ 認知特性を考慮した支援の大切さ ~
 人が外部からの情報に気づき、受け取り、処理をし、反応する過程について、その人が持つ特性を捉え考慮することは、特に教育や支援の場では大切なことです。
 例えば、情報に気づき受け取る過程では、感覚が過敏な場合とそうでない場合では、配慮する点は大きくことなります。また、注意を維持することができるのか、維持できず違うことに注意が移るのかでも、配慮する点は異なります。他にも、記憶の過程、言葉の理解、文字の理解、図の理解、それぞれを使った表現など、人によってその特性や得意不得意はさまざまです。
 認知特性を考慮した支援は、本人が保持している能力を活用することにもつながります。そしてそれは、本人の尊厳を守り、意思決定を尊重する支援のためにも大切です。

継次処理と同時処理

人が外界から情報刺激を入力して、脳の中枢で情報を認知的に処理し、出力する過程を「認知処理様式」とよび、「継次処理」と「同時処理」の2つがあると言われています。
通常はどちらもバランスよく発達するとされていますが,発達障害の特性を有する人は、認知処理様式が偏っている傾向があります。

継次処理とは、情報を一つずつ順序立てて理解する方法で、次々に現れる刺激をワーキングメモリに蓄え、それを統合してひとつの事柄として理解することで、時間的聴覚的な手掛かりとされています。

また、同時処理とは、情報の全体を捉えてから,部分同士を関連付けて理解する方法で、時間系列に関係なく、いくつかの情報を同時にとらえて理解することで、視覚的な手掛かりとされています。(Naglieri, Jack A(2010), A. Luria (1902-1977))

<継次処理>

  • 仕事においてやることを順番に説明されるとできる
  • 文章で目的地まで示されていると、すぐに理解できる
  • 家事を料理、洗濯、掃除と1つずつ行っていく
  • 見本があると、同じようにできる
  • 1つずつ行うので、細かいミスが少ない
  • 説明書を読むのが得意

<同時処理>

  • 仕事で最初に目的を教えると理解が早い
  • 地図を見て位置関係の把握ができる
  • 料理、洗濯、掃除を同時に進められる
  • 曖昧な指示でも動ける
  • 一見無関係なものでも規則性を見出して覚える

このように、人には得意な認知処理様式があるので、自分の得意な認知特性を用いることによって効率的に学習、仕事、生活を行うことができます。

継次処理・同時処理のアセスメント

日本版KABC-Ⅱ

  • 日本版K-ABCを継承・発展させた新機軸の心理・教育アセスメント手段
  • 認知尺度、基礎学力を測定できる個別式習得尺度
  • カウフマンモデルおよびCHCモデルという2つの理論モデルに立脚している認知処理を、
  • 継次処理と同時処理だけでなく、学習能力、計画能力の4つの能力から測定している
  • 行動観察チェックリストが下位検査ごとに設けられている

※適応年齢の上限18歳11カ月

DN-CAS

Luriaの神経心理学モデルから導き出された J.P.DasのPASSモデルを理論的基礎とした心理検査で、12の下位検査による標準実施、あるいは8つの下位検査による簡易実施に基づき、4つの認知機能領域(同時処理、継次処理、注意、プランニング)を測定可能。
LDやADHD、高機能自閉症等の判断のためのアセスメント、そして、その援助の手がかりを得るために有効な心理検査とされています。

※適応年齢は5歳0カ月〜17歳11カ月

プラニング 提示された情報に対して、効果的な解決方法を決定したり、選択したり、使用したりする認知プロセス
注意 提示された情報に対して、不要なものには注意を向けず、必要なものに注意を向ける認知プロセス
同時処理 提示された複数の情報をまとまりとして統合する認知活動
継次処理 提示された複数の情報を系列順序として統合する認知活動

自身の認知特性を知ることで得意なコミュニケーション方法を見つける

以前に会ったことがあるのに気が付かない、電化製品などを買った時に取説が理解できない、救急車のサイレンが遠くから鳴っていてもどこから聞こえているのかわからない、彼女が髪を切ったのに気づかない、など、認知特性による場合があります。

自分自身や相手の認知特性を意識してコミュニケーションすることで、良好な関係を築く一歩となります。

本田真美医師(みくにキッズクリニック)は、認知特性というもので人を6つのタイプに分けています。

視覚優位者 (1)写真のように二次元で思考するタイプ
(2)空間や時間軸を使って三次元で考えるタイプ
言語優位者 (3)文字や文章を映像化してから思考するタイプ
(4)文字や文章を図式化してから思考するタイプ
聴覚優位者 (5)文字や文章を、耳から入れる音として情報処理するタイプ
(6)音色や音階といった、音楽的イメージを脳に入力するタイプ

 

著書「医師のつくった「頭のよさ」テスト~認知特性から見た6つのパターン~(光文社新書)」に認知特性テストが掲載されていますが、サイトからもダウンロードできます。
この認知特性テストでは、40の質問に答えることで6つのタイプがレーダーチャートで表出される内容になっています。
認知特性テストの本田式認知特性研究所

<質問例>「フランシスコ・ザビエル」と聞いたとき、何を思い浮かべますか?

A  「フランシスコ・ザビエル」というカタカナの文字
B  何となく「フランシスコ・ザビエル」のようなぼやけた人物像
C  教科書に載っていた「フランシスコ・ザビエル」の写真
D  おもしろい、または言いづらそうな名前(響き)だな~と思う

◎暮らしのヒント・支援のポイント ~ 私とあなたの”捉え方”は違う ~
  男女の脳の違いにおける情報の捉え方を題材にした本がベストセラーになったことがありました。地図を見ることがなんでもなくできる人、頑張ればできる人、苦手な人…、男性にも女性にも、それぞれいらっしゃると思います。
 毎日の生活の中では、自分以外の人と接することは多々あります。家族、地域、職場、学校、趣味の場、病院や公共機関で。たとえよく知っている間柄でも、「なぜそうするの?理解できない」と思った経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。ましてや、初対面や、その場限りに居合わせた人同士では、より一層理解しにくいことも経験されたかもしれません。
 私たちには、さまざまな認知特性があり、ものごとの捉え方の違いは、コミュニケーションにおいても現れます。大切なのは、私と他の人は異なる特性の持ち主であると理解するのと同時に、それぞれが尊重されるべき存在であることを憶えておく、ということでしょうか。

「好き/得意」を活用し苦手な知性を伸ばす<MI理論>

MI(Multiple Intelligences:多重知性)理論は1983年に、ハーバード大学の心理学者ハワード・ガードナーが提唱しました。「紙と鉛筆だけで測るテスト知能だけではなく、それ以外の知能にも目を向けるべきだ」と主張しています。大切なことは、8つの知性をバランスよく持つことです。そうすることにより、日々の生活、学習、社会において、様々な知識やアイデアなどで様々な局面に対応する術を持つことができます。
まずは、8つの知性の好き/嫌い、得意/苦手を把握し、次に、「好き/得意」を活用し苦手な知性を伸ばしていきます。
「人は皆それぞれ一組のMultiple Intelligences(多重知性)を持っており、少なくとも8-9つの知的活動の特定の分野で、才能を大いに伸ばすことが出来ます。
ガードナーは、人間には①言語的知能、②論理数学的知能、③音楽的知能、④空間的知能、⑤身体的知能、⑥対人的知能、⑦内省的知能⑧博物的能力、こ れら8つの少なくともいくつかの潜在能力、知能をもっていると述べています。

Gardner (1999) による分類  各知能の説明
 言語的知能  話し言葉や書き言葉を効果的に使いこなす力。説得力や言葉を使って覚えた記憶力など。
 論理・数学的知能  数字を有効に使えたり、何かを明快に論証できる力。分類、類推、予測、仮説の検証ができるなど。
 空間的知能  視覚的・空間的に物事を捉えたり、視覚的・空間的な認識を自由に転換できる力。絵、色、線、形、距離に敏感に反応できたり、イメージできる力など。
 音楽的知能  多様な音楽の種類を認識したり、識別したり、作曲したり、何かを音楽で表現(演奏)したりできる力など。
 身体・運動的知能  物事を自分の体で表現したり、ものを自分の手で作ったり、作り替えたりする力。協調動作やバランス、手先の器用さ、身体的な強さや柔軟さ、機敏さなどを含む。
 対人的知能  他人の感情やモチベーションを見分ける力。人間関係における様々な合図を読み取れる力など。
 内省的知能  自分の長所や短所を正確に把握し、気性や願い、目標、動機づけなどの自覚ができる力。また自分自身を律したり、大切にする力など。
 博物的知能  さまざまな種類の植物や動物を認識したり、分類できる力。自然現象への敏感さや、いろいろな無生物の物質の違いを区別できる力など。

(マルチ知能理論(Gardner, 1999)による8つの知能[Gardner, (1999)とArmstrong(2000)を参考に涌井作成(2011)を改変)

8つの知能のアセスメント(日能研サイト)

※自身の知能バランスを24の質問からアセスメントすることができます。

認知特性を考えた環境づくりを

学校や職場で気が散る、集中できないという場合には、視覚や聴覚からの情報に過剰反応することが原因の場合があります。

発達障害のある人の中には、聴覚が過敏で、多くの人にとって気にならないような音が堪えらなくて、疲れてしまうことがあります。たとえば気にならない程度の話し声をしているお店にいても大騒ぎしているライブのように感じたりします。

また、カラフルな色使いは華やかで刺激があって好む人が多いですが、視覚過敏だと気分が悪くなったりすることがあります。

体調が悪かったり、不安が強かったりするときには、特に感覚過敏が強くなりやすいようです。

普通の人でも、認知特性の影響で落ち着かないとか集中できないということもあるため、自身の特性にあった環境づくりを心がけることが重要です。

 ◎暮らしのヒント・支援のポイント ~ 暮らしやすい環境のために ~
  「周囲の音がうるさくて、集中できない」という経験をしたことがある人は多いと思います。また、気温が暑すぎたり寒すぎたりしても、集中を継続することは難しいものです。 普段は慣れているはずの音も、疲れている時には耳障りに感じたり、イライラする原因になることもあります。
 音や温度だけでなく、匂いや肌触り、色彩なども、人によっては快適さや集中力を妨げるものになります。
 思うように勉強や読書が捗らないとき、イライラするとき、ちょっとしたミスが多いときなどは、その原因になっていることを、認知機能や特性の面から考えてみると、快適な環境づくりに役立つかもしれません。
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