社会認知」とは、認知機能の領域の一つであり、その定義は「他者を知り自己を知る脳機能」、「他者の意図や性質を理解する人間としての能力を含む、対人関係の基礎となる精神活動」、「自分と同種の生物への対応を支える過程、特に、霊長類に観察される、非常に多様でフレキシブルな社会的行動を支える高次の認知過程」など様々な解釈がなされています。

一般的には、「他者の意図」「傾向」「行動」を知覚し、解釈し、反応を返すという一連の社会的な相互作用の基盤となる認知機能とされています。(Green MF et al:Schizophr Bull,34,1211,2008)

この機能 は,我々が社会生活を送る際に,他者の表情, 言動,行動などから相手の感情や意思を推測し,その過程から自己の生存に必要な意思決定が行われ,円滑な対人関係を形成し,維持していくために必要な認知機能とされています。
そして社会性に関わる認知機能を維持するためには,主に表情の認知と,意思定による行動の選択という二つの要素が必要とされており、人はまず他者の表情からお互いを知り,内面に関わる部分を共感する.その結果自己にとって適切な意思決定が行われ,行動を選択することにより社会性を保っています。

神経認知と社会的認知

神経認知機能が、比較的要素的な機能であるのに対し、対人的・社会的状況における情報の補足や判断に関する認知機能全般を社会認知と呼び分けています。(大森哲郎,精神疾患と認知機能、新興医学出版:78-82,2011)

社会的機能(対人関係・日常生活機能、就労など)と記憶・注意・遂行機能などの脳の高次脳としての神経認知との関連が注目され、統合失調症に対して非定型抗精神病薬や神経認知機能リハビリテーションなどにより、神経認知の改善を通して社会的機能を改善するることが試みられています。

メタ解析や大規模無作為割り付け統制研究の結果などから社会的機能の改善効果は限定的であることがわかり、神経認知とは独立して社会的機能に直接介入する方法の可能性が考えられるようになっています。

 

社会認知機能の5つの領域

社会的認知は社会的交流を円滑にするために必要であり、心の理論(theory of mind;ToM)、情緒推定課程、感情的な意思決定の3つが重要であると言われています。(Samame C et al:Acta Psychiatr Scand,125,266,2012)

心の理論(theory of mind;ToM) 他者の意向、傾向、信念などを推し量る能力
社会知覚(social perception) 言語/非言語的な手がかりから、社会的な状況の文脈や、相互の関係性、役割などを同定する能力
社会知識(social knowledge) 社会的な状況を特徴づけ、社会における相互関係をガイドする、ルールや役割、目的に関する知識
帰属バイアス(attributional bias) Positiveまたはnegativeな事象の原因を推測する際の個人に典型的なスタイル
情動処理(emotional processing) 情動の認知、使用に関する幅広い内容を含有、情動処理に関する有力なモデルでは、情動の知覚、情動による思考の促進、情動の理解、情動の管理の4つのコンポーネントが含まれる

 

心の理論(ToMと共感)

ToM(theory of mind)は他者に信念・意図を帰属させることを指します。ToMの障害は広汎性発達障害や統合失調症で多くの報告があります。

自閉症における「心の理論」の獲得障害は、傍帯状回を含む内側前頭前野、上側頭溝後部の活動低下と関連していることが報告されています。これは正常知能の自閉症者を対象に他者の誤った信念を推測できないと理解できない文章を読んだ時に賦活する脳部位を陽電子崩壊断層画像(PET)によって賦活する脳部位を計測したものです。定型発達者では左内側前頭前野(傍帯状皮質)で賦活が見られたのに対して、自閉症者では見られなかったというものです。(Happe F et al,Neuroreport 8,197-201,1996)

そのほか機能的核磁気共鳴法(fMRI)を用いた研究でも、自閉症者が定型発達者が賦活が見られた前頭頭頂領域、側頭頭頂領域、扁桃体、海馬、島、線条体で賦活が弱かったという報告があります。(Baron-Cohen S et al,Eur J Neurosci 11,1891-1898,1999)

社会知覚(情動的表情認知と扁桃体)

人は言語と非言語的な手がかりから、社会的な状況の文脈や、相互の関係性、役割などを同定していきます。社会行動を円滑にすすめるうえで、顔の表情、顔色、視線、身振り、手振り、体の姿勢、相手との物理的な距離の置き方など、非言語的メッセージ(非言語コミュニケーション)は重要な要素とされています。

非言語的社会的情報の認知プロセスにおいて、情動的表情、特に基本情動(恐怖、怒り、悲しみ、幸せ、嫌悪、驚き)認知の理解が進んでいます。

 

この基本情動の表情認知に関係が深いのが扁桃体であることはコンセンサスが十分に得られており、健常成人による非侵襲的な神経心理学研究では、健常者の扁桃体はすべての顔表情や、無意識に提示された情動的刺激に応答することが報告されています。(Morris JS et al;Nature 393:467-470,1998)

また、統合失調では情動的表情認知能力の低下や障害が扁桃体の体積減少と関連していることが示されています。(Rizzolatti G et al;Annu Rev Neurosci,27,169-192,2004)

神経心理学研究では、「顔を見て誰だかわかること(人物の同定)」と「顔を見てその人の気分がわかること(表情の認識」が別のことであり、それぞれが異なる脳内機構によって行われていることが示唆されています。

人物の固定には紡錘状回の活動が不可欠で、表情の認知のうち「表情を知る(know)」には上側頭溝周辺領域が、「表情を感じる(feel)」には扁桃体が、「表情を考察する(think)」には前頭葉内側部が重要な役割を担っており、人の顔を見て表情を読み取るには脳のかなりの部分を使っていることがわかります。

認知機能のメカニズムに関する様々な研究

社会的認知は様々な研究から、神経認知とは別の神経基盤も有することが明らかとなっており、“前頭前野-上側頭回-扁桃体”ネットワークなどが関与することが示唆され(Pinkham, A.E., Am J Psychiatry, 160; 815-824, 2003)、その後、眼窩前頭皮質、内側前頭前皮質、前部帯状皮質、扁桃体、頭頂葉頭接合部、上側頭溝領域、側頭極、島など、前頭葉・側頭葉・頭頂葉、および辺縁系に広がるこれらの広範囲な脳構造が形成する神経ネットワークがヒトの多様な社会的認知能力の基盤であると考えられるようになってきています。(村井ら、社会的認知を支えるネットワーク、神経心理学(23)243-249,2007)

神経科学においては、社会的認知機能は他個体とのコミュニケーションや社会生活を営むために必要な認知機能で、具体的には感情・共感・モラル・適切な振る舞いのことをいいますが、それぞれ脳内機構を検討する研究分野がNeuroethics Neuroeconomicsと呼ばれ、これらの神経科学分野が独り立ちしつつあります。(岩田誠ら、社会活動と脳-行動の原点を探る 医学書院 2008)

認知神経科学

認知神経科学とは、認識の生物学的メカニズムを科学的に研究する学術分野で、心理プロセスとその行動面での表れ方の神経基盤に特に焦点を当てている。認知神経科学は、心理/認知的機能が神経回路によってどのように生み出されるかという疑問に答えようとする学問でもある。

認知神経科学は心理学と神経科学の両方から生まれた分野で、認知心理学、心理生物学、神経生物学などの諸分野を統一する、またはそれらと重なり合う分野である。fMRIが誕生する以前は、認知神経科学は認知心理生理学と呼ばれていた。認知神経科学は実験心理学や神経生物学を背景に持ちながら、精神医学、神経学、物理学、言語学、数学からも広がっていく分野でもある。(wikipediaより)

認知脳科学

認知脳科学(cognitive neuroscience)とは、人間の認知と行動を実現している脳の機能とメカニズムを理解しようとする研究分野です。

※自分のおかれている環境を理解するための知覚、注意、認識や適切な行動を遂行するための運動制御、計画、意思決定、さらにはそれらをサポートする記憶や感情、言語、高次認知などのさまざまなプロセスを包含し、しばしばわれわれの意識の及ばない無意識化で遂行されるものも含むとされています。

実験認知心理学

健常者を対象として認知能力を調べる実験で多くは実験室などで反応時間や正答率などを使用として客観的なエータを測定する。これまでの実験により注意、知覚、学習、記憶などのプロセスについて多くの知見が得られてきました。

認知神経心理学

脳損傷患者の認知能力を調べることによって、逆に健常者の認知能力についての洞察を得るというアプローチ。認知神経心理学における重要な前提はモジュール性、最も重要な概念は二重乖(かい)離(double dissociation)です。

1861年に外科医のブローカー医師が発話に障害をきたす失語症患者すべてが左脳の下前頭回を損傷していることを、1874年にウェルニッケが発話には問題がないが聞き取りができないタイプの失語症患者は、ウエルニッケ野に損傷を持つことを報告したは有名です。

ブローカ野を損傷した患者は発語はできないが聞き取りはでき、ウェルニッケ野を損傷した患者は聞き取りはできないが発話はできる、また、頭頂葉にある角回が言葉の読み書きに関連していることがわかっています。

このような言語機能は、「発話」「聞き取り」「読み書き」「音韻処理」などのサブモジュールの組み合わせによって担われていることが認知神経心理学研究によって示されています。

計算論的認知科学

計算論的認知科学では、人間の認知機能のある側面をモデル化したコンピュータのプログラムを作成することによって、そのモデルの妥当性を検証していくとされています。

計算論的認知科学者であるデビッド・マーが挙げている(1)計算レベル(2)表現とアルゴリズムレベル(3)実装レベルの三段階の説明レベル(*)の3つが揃ってはじめてその情報処理システムを完全に理解したといえるとしています。

※デビッド・マーら:ビジョンー視覚の計算理論と脳内表現,産業図書(1987)