遂行機能は、ある目標を達成させるために計画的に段取りをつけて行動する機能で、人が社会的、自立的、創造的な活動を行うのに非常な重要な機能とされています。 (Lezak MD.Int J Pshychol 17,281-197,1982))。

また、遂行機能は、視覚・聴覚・嗅覚などの様々な情報と、過去の経験をすり合わせて、前頭葉で調整するはたらきがあるため、脳梗塞や前頭側頭葉変性症などの何らかの障害でによって前頭葉の働きが悪くなると、料理や洗濯、片付け、入浴など、日常生活を送るための段取りをつけられなくなるたなど、様々な行動が難しくなります。

右図は、ニューヨーク大学ラスク研究所の神経心理ピラミッドを改編したもので、認知機能の働き方には順番があり、下の階層の機能は基礎であり、その上にあるすべての機能に影響します。

遂行機能(実行機能)はこれらの高次脳機能(認知機能)の中でも最上位に位置しており司令塔的な役割です。

高次脳機能の改善を図るには、上位にある高次脳機能ばかりに介入するのではなく、下位の覚醒や疲労等を整える必要があることを表しています。

遂行機能(実行機能)の要素

遂行(実行)機能とは、「将来の目標達成のために適切な構えを維持する能力」と定義され、具体的には1)目標設定、2)計画率、3)計画実行、4)効果的遂行などの要素から成り立っています。

私たちは何かを実行するときに、この4つの要素を無意識又は意識をしながら行っています。たとえば、日常生活における役所や金融機関の手続き、料理や買い物、そして人とのコミュニケーションに必要な機能であり、目標や計画を立てたり、判断が迫られたり、トラブルなどの突然のできごとの対応や解決策を講じる際に、大きな役割を果たす機能です。

還元すると、2)意図的に構想を立て、2)採るべき手段を考案・選択し、3)目的に方向性を定めた作業を開始・維持しながら必要に応じて修正し、4)目標まで到達度を計測することにより遂行の効率化を図る、という一連の行為を指します。

遂行機能(実行機能)は単一の脳機能ではなく、目標志向行動を計画・開始・維持するための複数の認知機能からなる包括的脳機能で、分割注意・複数課題の処理能力・思考セットの変換能力・思考スピード・帰納的推測などの総称で、優勢反応の抑制,認知セットの切り替え,ワーキングメモリに保持された情報の更新などの下位機能から構成されています(Garon et al., 2008; Miyake et al., 2000; Welsh et al., 1991)。

つまり、日常生活で何らかの問題に遭遇した際、それを解決していくために動員される一連の複雑な認知・行動機能の総称と考えられるものです。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の権威であるラッセル・バークレー(Russell A. Barkley, Ph.D)は、「実行機能とは、何をどのように実行するかではなく、いつどちらを実行するかの判断力」と定義しています。

遂行機能障害

「得意な料理が下手になり、盛り付けもいい加減になった。出前や惣菜を買うことが増えた」「手際がよかった事務仕事のミスが増えた、伝票の書き忘れ、スケジュール管理ができない、仕事の効率が悪くなったと上司から注意されることが多くなった」、これらの現象は初期の遂行(実行)機能障害の症状です。

遂行機能障害とは、この能力が障害されることで、目的に合わせて計画を立てたり、手順を決めたり、段取りをつけたりできなくなります。

遂行機能は、記憶している情報や見たり聞いたりした情報が間違っていると、正しく物事を判断して進めることができなくなるため、記憶低下(障害)により遂行機能の障害が生じる場合があります。

また、記憶や物事を見たり聞いたりして認識する能力が保たれている場合でも、目的にあったかたちで自分の行動をうまく管理・実行することができなるようような障害が遂行機能障害となります。

遂行機能障害は、前頭葉のとくに前頭前野を中心とした脳損傷、前頭葉の障害が中心となる前頭側頭型認知症で起こりますが、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症でも遂行機能障害が生じるケースがあるので注意が必要とされています。(川合圭成,ブレインナーシング,8,48,2017)

遂行機能障害は前頭葉または線条体前頭葉投射系の障害で生じます。遂行実行機能障害の発現に直接関与する投射系は背外側前頭前野投射系ですが、外側眼窩前頭葉投射系の障害は脱抑制・無軌道な行動を生じ、また、前部帯状回投射系の障害は無為・無関心を生じ、いずれも遂行機能を間接的に障害する可能性があるとされています。(福井俊哉,認知神経科学:12(3・4),2010)

遂行機能のアセスメント(神経心理学検査)

遂行機能(実行機能)には多様な側面があるので、多種の検査があります。

総合検査法には、簡便なものとしてFAB(Frontal Assesment Battery:簡易前頭葉機能検査)、詳細なものとしてBADS(Behavioural Assesment of the Dysexecutive Syndrome:遂行機能障症候群の行動評価)などがあります。

遂行機能のすべての過程を含む検査はなく、生態学的妥当性のない検査も多くあります。これらの検査は患者さんにとって時間がかかり疲労感を招く場合が多いことが課題で、また、年齢や教育歴の影響も受けやすく、70歳以上で一部の作業能力は健常高齢者でも成績が著しく低下することがあります。

そのため、神経心理検査を複数実施するより、実行機能のスクリーニング検査であるFABや包括的な検査であるEXITを施行するほうが合理的で、あわせて認知機能の検査と併用していけば、双方のスクリーニングも可能となります。(仲秋秀太郎,老年精神医学雑誌,26(3),248-256,2015)

BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)

BADSは前頭葉症状の中核となる遂行機能障害を症候群として捉えていることに特徴があり、様々な行動面に対する評価を系統的・包括的に行えるバッテリーです。

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)

FABは、概念化(異なる物品間の類似点)、音韻性語想起(精神柔軟性)、ルリアの「グー、刀、パーの手の形」の模倣(動作計画性)、拮抗的指示に対する反応(干渉に対する反応)、抑制的コントロールにみるGo-No go課題、および把握動作(把握反射)の有無の6課題よりなり、概念化と把握動作以外は遂行機能を量る課題と考えられています。

簡便に前頭葉機能を多面的に測定できるスクリーニング検査で、検査時間が短く、特別な器具も必要としません。一般的には 8 歳以上で満点(18 点)が取れるとされており、前頭葉機能の中でどこが特異的に障害されているのかを大まかに知るのには便利だが、その程度を詳しく見るのには適さないとされています。

前頭葉機能検査(FAB)

遂行機能の下位機能

遂行機能は単一の脳機能ではなく、分割注意・複数課題の処理能力(かなひろいテスト、Trail Making Test)、思考セットの変換能力(Sroop Test)、思考スピード(語想起)、帰納的推測(Wisconsin Card Sorting Test、Tower of Hanoi)などの下位脳機能から成り立つ包括的脳機能であるとされています。

分割注意・複数課題の処理能力ーかなひろいテスト、Trail Making Test

分割注意とは、複数の対象に対して実質的な注意を同時に払える能力をいいます。(聖徳太子は分割注意・複数課題の処理能力にたけていた)
複数課題の処理能力は、注意を分割して注目した課題を同時に処理する能力で、分割注意と複数課題の処理能力は相互に関連深い脳機能で、かなひろテストやTMT(Trail Making Test:トレイルメイキングテスト)があります。

かなひろいテスト

トレイルメイキングテスト

思考セットの変換能力ーStoop Test (ストループテスト)

思考セットの変換は、1つの視点・考え方から他の視点・考え方への変更できる能力です。

たとえば、右の花瓶の写真を見方を変える(思考セットを変換する)ことにより、二人の黒い顔が向かい合って見えるように見えます。

Stroop Testは、まず「色丸(24個)の色を呼称する」という課題を行い、書かれている文字の色を答えるように教示され、文字の意味がその色と関係あり、しかも異なる場合(不一致文字)、参加者は困難を示す、例えば、赤色の「あお」という文字、緑色の 「きいろ」という文字の色を答えるような場合である、これは、文字の意味が、文字の色を答えることを阻害するためであり、参加者は文字の意味を答える傾向 (優位な行動)を抑制しなければならない、とされています。

ストループテスト

思考スピード(語想起)

課題の内容を問わずそれを施行するスピードで、思考スピードが障害されると緩慢が生じて遂行機能を停滞させます。思考スピードを反映する簡易検査として、語想起検査があります。

意味性語想起では、「野菜」、「スーパーマーケットの店頭に並んでいる品名」など1分間で挙げる検査で長谷川式簡易知能評価スケールでは野菜の語想起を採用しており10個以上/分が正常としています。

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

また、音韻性語想起では、「か」で始まる単語を1分間で挙げる検査で、FAB日本語版では9個以上/分、MoCA-Jでは11個以上/分が正常とされています。

FAB(前頭葉機能検査)

MoCA-Test-Japanese

帰納的推測ーWisconsin Card Sorting Test(WCST:ウィスコンシン・カード分類)

帰納的推測は、個別的・部分的・特殊な事象から、一般的・普遍的な規則・法則を見出す推測法で、手持ちの断片的な資料・情報からより包括的な目的・ゴールを考えだす際に必要な推測能力です。

帰納的推測を測る検査法として、Wisconsin Card Sorting Test(WCST)とTowew of Hnoiがその代表的なものです。

WCSTは、ミルナーによって開発された前頭葉機能検査であり、前頭葉機能の障害が明らかになると言われており、現在はWSCT(Keio Version)など複数の改良版が医療現場を中心に利用されています。(鹿島晴雄ら,脳と精神の医学,6,209-216,1995)

WSCTを用いて小学生におけるネガティブな情動が複合的な実行機能課題の遂行に及ぼす影響について研究しているものがあります。この研究では、情動条件では統制条件より全体的な課題遂行が低く、固執傾向が強まること、情動条件では3・5年生の遂行がそれぞれ2学年下の児童と同程度まで低下することが示され、教育実践においてネガティブな情動が特定の認知能力の低下をもたらすことを考慮する必要性を提案しています。(中道圭人,教科開発学論集:4,2-11,2016)