注意は(attention)は様々な認知機能の基盤とされています。(Parasuraman R:The Attentive Brain.A Bradford Book,The MIT press,Cambridge,3-16,2000)

<注意の定義>

  • 意識的、意図的にひとつの対象や、複雑な体験のひとつのコンポーネントに心的エネルギーを集中し、他の情動的ないし飛行的内容を排除すること(Campbell 1981)
  • 心的活動をひとつないしいくつかの対象に能動的に向けること、ないしは心的活動がひとつないしいくつかのにより受動的にひきつけられること(Peters 1984)
  • 必要な情報の選択と、正確で組織立った行為のプログラムの保証、およびその行為の経過に対して恒常的制御を維持することで、意識的活動の選択的性格を保証するもの(Luria 1973,1975)

高次脳機能の中でも「注意」は他の認知過程の根幹となり,その障害は多くの日常・社会生活を阻害しうるものとしています。(Sohlberg,MM,et al:Guilford Press,110-135,1989)

そのため脳損傷後や精神障害例における「注意の障害」は、多くの認知行動障害を引き起こすことになります。

認知機能は日常生活を送るうえで必要不可欠であり、知覚や記憶、計算、言語理解などが含まれる。その認知機能の基盤となっているのが注意であり、注意が阻害されると認知機能も低下します。(加藤元一郎,注意の概念,理学情報ジャーナル,37(12),1023-1028,2003)

注意力は情報の選択的処理機能

注意はその定義が非常に難儀であるが、多くの情報の中から情報を選択する心的機能であり、脳の限られた処理資源を有効に活用するために、不要な情報には処理資源を割り当てず、必要な情報だけを優先的に処理するといった資源の最適化を行う情報の選択的処理機能であると考えられています。
(松吉大輔,複数の注意と意識,脳(社会脳シリーズ3)新曜社,121-147,2013))

全身の感覚器や目(視覚)・耳(聴覚・平衡覚)・鼻(嗅覚)・口腔(味覚)からの膨大な量の感覚情報が大脳に届きますが、脳の情報処理量には限界があるので、そのうちの一部分の感覚情報だけを取捨選択して、いわば焦点を当てて情報処理しています。この特定の対象に意識を向ける働き「大切なことに意識を集中する働き」が注意機能の役割です。

これらの感覚器からの情報だでなく、常に、記憶の働きにより過去の情報にも触れており、感覚情報や記憶情報を組み合わせることにより、さまざまな思考が生じています。
私たちがこの世界で生存するためには、これらの感覚・記憶・思考情報の中から適切なものを選択し、適切な行動を計画し、実行することが求められます。
(齋木潤,第16章「注意」,発達科学ハンドブック,158-168,2015)

注意の分類

注意は全般性注意(generalized attention)と方向性注意(directed attention)に分けられ、前者の障害が全般性注意障害で後者の障害は半側空間無視としています。(加藤元一郎:高次脳機能障害ハンドブック:21-45,医学書院,2006)

全般性注意では、「選択」「持続」「分配」「転換」の各要素に分けられています。

持続性注意 持続して、あるいは繰り返して行われる活動の間、一定の反応行動を持続させる能力(最も低次で基本的な注意)
書類整理やタイプなどの事務作業を例にすると,注意集中を妨害するような要因がない静かな環境で一定時間集中して作業を継続する
選択制注意 複数の刺激に対して、反応の促進やテレビ,周囲の騒音,他人の会話などノイズが溢れる環境で,これらの妨害因子を無視して本来の作業のみに専念する
転換性注意  複数の情報処理を交代に行うことである。例えばワープロ作業中に電話がかかってきた場合,電話対応中はワープロ操作を中断し,電話を切った後にワープロ業務を再開する
分配性注意  ワープロ作業を中断せずに電話対応中も継続するように、2 つの作業を同時処理する。最も複雑な注意の機能といえる。

 

日常の風景から見た注意機能

3歳の子どもを連れて渋谷にショッピングに出かけて、買い物を終えて駅のコンコースを歩いていた時に、10年ぶりに学生時代の友人に出会いました。平日とはいえ夕方近くで人ごみで周囲は騒々しい状況です。

周囲の雑音に邪魔されることなく友人の話す声に注意を向ける(注意の選択)

友人との懐かしい会話に注意を向け続ける(注意の持続)

会話に夢中になっていると、3歳の子どもがぐずりだし、声をかけたりして落ち着かせる(注意の転換・配分)

電車の乗車時間が近づき、友人に断って時刻表を確認する(注意の制御)

 

感覚情報フィルターとしての注意機能

人間は必要な情報だけを抜き取って意識に上らせ(顕在化)、ほかの大部分の情報は意識に上らせない(潜在化)という情報フィルターの仕組みをもっています。

健常者は、五感から入ってくる多くの情報の中から特定の情報を拾い出す作業(注意の選択・集中)を、意図せず行っていますが、膨大な感覚情報をフィルターにかけて、ごく一部の重要な情報だけを意識に上らせ、そこに集中する働きが注意機能です。

例えば、スマホを見ながら自転車に乗って横断歩道に差し掛かかり前方に子どもが歩いているという場面では、①隣を走る車の姿と走行音②横断歩道から流れる音が聴覚から、③横断歩道をわたる男の子④青色を表示する信号⑤スマートホンの画面が視覚から、⑥自転車のサドルと臀部が触れる感覚⑦ペダルを漕ぐ足からの感覚⑧左手でハンドルを握る感覚⑨開けた口に入る風で渇く感覚が皮膚等の感覚器から情報が入ってきます。

これらの情報すべてを私たちは感じているわけでなく、必要な情報を無意識に取捨選択しているのです。健常者は日常の中で、たくさんの情報の中から特定の情報を拾い出す作業(注意の選択・集中)を、健常者はあまり意図せずに行っているため、その重要性に気づいてませんが、認知症、発達障害、精神障害ではこの情報フィルターが壊れて(注意障害)、生活に支障が起きることがよくあります。認知症の人は記憶が悪いだけではなく、注意機能は初期から低下しています。

健常者は自分ができることは誰でもできると思ってしまいがちですが、「無数の感覚情報が押し寄せてきて押しつぶされるような状態」がアスペルガー症候群や認知症の人に生じていることが当事者の出版本で表現されています。
当事者のいうことに耳を傾けてイメージを膨らませて初めて、当事者の抱える困難を健常である介護者が推測することができます。(山口晴保,認知症ケア研究誌 3:45-57,2019)