開発の背景

団塊の世代が75歳以上になる2025年には、わが国の認知症高齢者の数は約700万人となり、65歳以上の高齢者の5人に1人に達する見込みであることが報じられています。
認知症は、そのすべてが突然発症するのではなく、脳内に変化がみられるが症状のない無症候期(プレクリニカル期)があり、認知症とまではいかないが認知機能の軽度な障害がある軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)の時期を経て発症するとされています。
より早期で発見し適切な治療や予防に繋げるために、MCI期から進行度合いを経時的に評価でき、侵襲性の低い簡便なスクリーニング方法が必要とされています。

誰を対象に、どこで行うのがいいか

早期の段階のひとつがMCI(軽度認知障害)とされていますが、①認知機能をどのような評価尺度を用いて評価するのか、② どのような状態をもって正常と位置付けるのか
③ 本人となる対象者は地域住民か、それとも専門クリニック受診者かという課題があります。
 本人の自宅や介護施設および薬局など、病院やクリニック以外での取り組みとして、多くの人が集う身近な場所でMCIの兆候に気づき、適切に医療につなぐことができれば、本人の負担が少なく、低コストで早期発見を実現できることになります。

どんなツールが必要なのか

現在、認知症の診断のために医療現場で行われている神経心理学的な認知機能検査は、人や時間などのコストがかかり、今後さらに増加する高齢者に対して、それらを用いてより早期に認知症の兆候をスクリーニングすることは困難です。 短時間に、低コストでより多くの高齢者の状態を把握する仕組みが必要とされています。

MCI以前での早期発見のためには、低コストで多くの人が手軽に利用でき、認知機能の変化に気づける方法の確立が重要です。従来は専門職による紙や道具を使った検査で確認していた認知機能を、本人や家族が主体となってICTを活用し手軽に確認できるとすれば、早期発見につながる可能性があります。

どの認知機能を調べるのか

認知症の診断には記憶機能の低下が中心になっていますが、早期の認知機能の低下では記憶だけでなく、学習機能、注意機能、知能機能、言語機能、視空間認知機能など、多面的な認知領域の低下を含んでいることがわかっていました。

地域高齢者を対象とした研究によると、記憶機能低下だけが低下している人の割合は3.2%に過ぎないが、記憶・学習、注意・集中、思考、言語、視空間認知の5つの認知領域のいずれか1つ以上の機能が低下している高齢者は19.3%であった、また、3年以内にどれだけの認知症に移行したかをみてみると、前者では11.1%が認知症に移行したのに対して、後者は28.6%が認知症に移行したことが認められたと報告されています。(Ritchie K et al,Neyrology,56,37-42,2001