神経心理学的検査とは,脳の損傷や認知症等によって生じた知能,記憶,言語等の高次脳機能の障害を評価するための検査で、医師または医師の指示により他の従事者が実施することができます。(会報JAMT,17(36),2011)。

神経心理検査を行うにあたって、資格は問われないとされており、臨床心理士(公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会認定)がありますが、法的な業務占有資格ではなく、言語聴覚士,理学療法士,作業療法士等が実施するケースは多くあります。

また、2017年9月15日に公認心理師法が施行され、心理職の国家資格「公認心理師資格」が誕生することになり、第1回公認心理師試験が平成30年中に実施される予定です。(公認心理師とは:厚生労働省ホームページ)

神経心理学的検査の多くは,被検者と検査者の神経心理学的アセスメントの目的は高次脳機能障害のスクリーニングやり取りで行われる質問式の検査のため,そのときの被検者の気分,検査者の質問の仕方や態度,相手との信頼感等,様々な要因が結果に影響を及ぼすことがあります。したがって,臨床心理や神経心理等に係る専門教育を受け,検査を熟知した者が行うことが望ましいとされています。(河月稔,医学検査:66,11-21,2017)

また、認知機能検査は結果が本人に適切なかたち、つまり単なるスクリーニングに留まらず、正確な診断とそれに基づく適切な治療方針の選択、個人の症状や特性に応じた日常へのケアにつながって初めて意味を持ちます。(河野禎之,認知神経科学,16(3・4),200-208,2015)

<神経心理学的アセスメントの種類>

全般的知的機能検査
1. ウェクスラー式児童用知能検査(Wechsler Intelligence Scale for Children:WISC-Ⅲ・Ⅳ)
2. ウェクスラー式成人知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale:WAIS-R, WAIS-Ⅲ)
3. カウフマン式児童用アセスメント・バッテリー(Kaufman Assessment Battery for Children:K-ABC, KABC-Ⅱ)
4. DN-CAS認知評価システム(Das-Naglieri Cognitive Assessment System:DN-CAS)
5. 神経行動認知状態検査(Neurobehavioral Cognitive Status Examination:COGNISTAT)
6. 精神状態短時間検査(Mini-Mental State Examination:MMSE)
7. モントリオール認知アセスメント(Montreal Cognitive Assessment:MoCA)
8. 神経心理状態反復性バッテリー(Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status:RBANS)
9. アルツハイマー病アセスメント・スケール(Alzheimer’s Disease Assessment Scale:ADAS)
10. 長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa Dementia Scale:HDS, HDS-R)
11. N式精神機能検査(Nishimura Dementia Scale:NDS)
12. N式精神機能検査(Nishimura Dementia Test:NDTest)
13. 統合失調症用認知の簡易アセスメント(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia:BACS)
14. 日本版成人読みテスト(Japanese Adult Reading Test:JART)
15. 一般職業適性検査(General Aptitude Test Battery:GATB)
前向性記憶機能検査
1. 改訂版ウェクスラー式記憶検査(Wechsler Memory Scale-Revised:WMS-R)
2. 三宅式言語記銘力検査
3. ベントン視覚記銘検査(Benton Visual Retention Test:BVRT)
4. レイ複雑図形(Rey-Osterrieth Complex Figure:ROCF)
行動記憶検査
1. リバーミード行動記憶検査(Rivermead Bahavioural Memory Test:RBMT)
逆向性記憶機能検査
1. 自伝的記憶検査(Autobiographical Memory Test:ABMT)
2. 価格テスト(Prices Test)
注意・集中機能検査
1. 標準注意検査法(Clinical Assessment for Attention:CAT)・標準意欲評価法(Clinical Assessment for Spontaneity:CAS)
2. 行動性無視検査(Behavioural Inattention Test:BIT)
視空間認知機能検査
1. 時計描画検査(Clock Drawing Test:CDT)
2. コース立方体組み合わせ検査(Kohs Block Design Test)
3. レーヴン色彩マトリックス検査(Raven’s Coloured Progressive Matrices:RCPM)
4. 標準高次視知覚検査(Visual Perception Test for Agnosia:VPTA)
遂行機能検査
1. 線引きテスト(Trail Making Test:TMT)
2. 実行時計描画課題(Executive Clock Drawing Task:CLOX)
3. 実行検査(Executive Interview:EXIT25)
4. 遂行機能障害症候群の行動評価(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome:BADS)
5. 標準高次動作性検査(Standard Performance Test of Apraxia:SPTA)※遂行機能検査の詳しい説明は「認知機能と遂行機能」のページをご覧ください
前頭葉機能検査
1. 語流暢性テスト(Verbal Fluency Test:WFT)
2. 前頭葉アセスメント・バッテリー(Frontal Assessment Battery:FAB)
3. ウィスコンシンカード分類検査(Wisconsin Card Sorting Test:WCST)
4. ストループ・テスト(Stroop Test)
5. 修正作話質問紙(Modified Confabulation Questionnaire)
意思決定機能検査
1. マックアーサー式治療用同意能力アセスメント・ツール(MacArthur Competence Assessment Tool-Treatment:MacCAT-T)
2. アイオワ・ギャンブリング課題(Iowa Gambling Task:IGT)
失語症検査
1. WAB失語症検査(Western Aphasia Battery:WAB)
2. 標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia:SLTA)
定性的アセスメント
1. ハノイの塔(Tower of Hanoi)による定性的アセスメント
2. 脳梁離断症状の定性的アセスメント
3. 発達障害の定性的アセスメント

(小海宏之,神経心理学的アセスメント・ハンドブック,2015より)

認知機能のアセスメントに用いられる神経心理テスト

認知機能のアセスメントに使用される神経心理検査は、診療報酬では「D283 発達及び知能検査」「D284 人格検査」「D285 認知機能検査その他の心理検査」に区分されます。

認知機能のアセスメントに用いられる神経心理検査は、言語、認知、行為主に紙や各種道具、コンピュータなどを用いて、うつ病や統合失調症といった精神疾患や自閉症スペクトラム障害、脳の損傷や認知症などにみられる知能・記憶・言語などの機能障害を数値化し、定量的・客観的に評価するために行います。

十種類程度の標準化された検査バッテリーや、数十種類以上の専門的検査を施行し、いわゆる高次脳機能障害を評価し、診断や治療計画の補助、治療効果の評価などに用いられています。

小児の高次脳機能障害に用いられる神経心理学検査

測定する能力 検査名 小児での標準化 所要時間 特徴
知的機能 WISC-Ⅲ知能検査 60分 言語性・動作性・全IQの算出。会項目の比較
K-ABC心理・教育アセスメントバッテリー 60分 課題を遂行する処理過程を通して認知能力を測定
コース立方体組み合わせテスト 30分 積木構成による非言語知能の測定
注意(視覚) かな拾いテスト × 5分 選択的注意と処理速度を測定
Trail Making Test(TMT) 一部○ 10分 視覚探索と注意の転換を測定
Frosting  視知覚発達検査 30分 視知覚発達障害の種類と重症度を測定
記憶( 言語) 三宅式記銘力検査 × 15分 単語の聴覚記銘力を測定
記憶( 非言語)  Benton 視覚記銘力検査  ○ 15分  簡単な図形の視覚記銘力を測定
遂行機能 慶應版Wisbonsin Card Sorting Test(K-WST) × 30分 観念形成とその転換を測定
言語機能 絵画語彙発達検査 10分 言語理解の発達を測定
SLTA(標準失語症検査) × 60分 言語症状のプロフィールや終章度を測定

(栗原まな.小児の高次脳機能障害.東京:診断と治療社,2008:19)

認知症の認知機能スクリーニング検査

(老年医学会で認知機能障害が疑われる場合に実施するのが望ましいとされている認知機能検査)

検査名 所用時間 内容
HDS-R(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised:改訂長谷川式認知症スケール) 6-10分 HDS-Rは年齢、見当識、3単語の即時記銘と遅延再生、計算、数字の逆唱、物品記銘、言語流暢性の9項目からなる30点満点の認知機能検査である。HDS-Rは20点以下が認知症疑いで感度93%、特異度86%と報告されている。
 Mini-Cog 2分以内 Mini-Cogは3語の即時再生と遅延再生と時計描画を組み合わせたスクリーニング検査である8)。Mini-Cogは2点以下が認知症疑いで感度76-99%、特異度83-93%であり、MMSEと同様の妥当性を有する(Borson S et al. J Am Geriatr Soc 51:1451-1454, 2003.)
  MoCA-J(Montreal Cognitive Assessment) 10分 MoCAまたはMoCA-J(Japanese version of MoCA)は視空間・遂行機能、命名、記憶、注意力、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識からなり、MCIをスクリーニングする検査である。(Nasreddine ZS et al. J Am Geriatr Soc 53:695-699, 2005.)

MoCAは25点以下がMCIであり、感度80-100%、特異度50-87%である。(Fage BA et al. Cochrane Database Syst Rev 2015)

MoCAはMMSEよりも糖尿病患者の認知機能障害を見出すことができる。(Alagiakrishnan K, et al. BioMed Research International Article ID 186106: 1-5, 2013.)

  DASC-21(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items: 地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート)  5-10分  DASC-21は認知機能障害と生活機能障害(社会生活の障害)に関連する行動の変化を評価する尺度で、介護職員やコメディカルでも施行できる21の質問からなる。また、DASC-21 は臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating, CDR)と相関があり、その妥当性が報告されている。(粟田ら:老年精神医学雑誌26:675-686, 2015.)(Awata et al. Geriatr Gerontol International (in press)
MMSE  (Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)  6-10分 MMSEは時間の見当識、場所の見当識、3単語の即時再生と遅延再生、計算、物品呼称、文章復唱、3段階の口頭命令、書字命令、文章書字、図形模写の計11項目から構成される30点満点の認知機能検査である。MMSEは23点以下が認知症疑いである(感度81%、特異度89%)( Folstein MF et al. J Psychiat Res 12: 189-193,1975、Tsoi KFC et al. JAMA Intern Med 175:1450-1458, 2015)

27点以下は軽度認知障害(MCI)が疑われる(感度45-60%、特異度65-90%)18-20)。(Tariq SH et al. Am J Geriatr Psychiatry 4:900-910, 2014、Saxton J et al. Postgrad Med 121:177-185, 2009、Kaufer DI et al. J Am Med Dir Assoc 9:586-593, 2008)

 

米国のADNI(※)プロジェクトが右図の15つの認知症テストを15 使っていました。そのうち,4 つの検査(MMSE,CDR,Delayed Paragraph Recall,GDS)は健常者、軽度認知障害者(MCI)、および認知症の定義,診断のために使用されています。

また,アルツハイマー病評定尺度―認知(ADAS-Cog)は上記4 つの検査の補助として,つかわれています。

ADNI(Alzheimer’s disease neuroimaging initiative
アルツハイマー病の発症予測や治療薬の効果判定法の確立を目的とした臨床研究。2005年に米国で立ち上げられ、欧州・オーストラリア・日本でも行われた。

 

高齢者の認知機能検査の問題点

認知症の重症度が軽度、あるいは初期段階の認知症例に対する感度が悪いことについてはいくつかの報告があります。(Tombaugh TN et al:J Am Geriaty Soc,40(9):922-935,1992)

ごく軽度の認知症におけるMMSEの感受性は十分でなく、得点が30点満点の認知症患者も存在することが指摘されています。(Shiroky JS,et al:Am J Alzheimers Dis Oter Demen,22(5):406-415,2007)

また、MMSEの平均点数が20点以上の認知症群に対しては44%(Huff FJ et al:Brain Lang,28(2):235-249,1986)、あるいは55%(Knopman DS et al:Arch Neurol,46(2):141-145,1989)にまで低下するといった限界が指摘されています。

<聴覚機能の問題>

質問式による神経心理テストにおいて、視聴覚障害や失語が顕著な対象者は得点が低くなる可能性があることは指摘されている(椎塚久雄,工学院大学研究報告第111号平成23年10月)ように、特に聴力および聴覚からの情報処理に問題がある人については、併せて聴覚認知のアセスメントが必要です。

加齢に伴う難聴者の割合は世代毎に増加しており、各種調査によると45dB以上の中等度難聴者の割合は、75歳以上で約4割、85歳以上ではほぼ全員と言われています。

補聴器の適応がある補聴器者のうち補聴器を装用している割合は15%程度にすぎず、難聴を抱える高齢者のほとんどは、難聴という「見えない障がい」に対してなんら対処を行っていないのが日本の現状です。

加齢性難聴の特徴は、小さな音が聞こえない、音が途切れ途切れに聞こえる(単語をひとつの音素のつながりとして聞き取れないために意味が分からない)などの症状を訴えると同時に、大きな音は歪んでしまい同様に聞き取りがたいという課題を抱えています(補充現象)。

そうした聞き取りの不良は単語や文レベルでの新奇学習の妨げになるから、難聴を放置した場合には耳から知識を獲得する機会が大幅に損なわれることになります。こうした生活の中での学習機会を失うことで社会や家族との間に頻回なコミュニケーションエラーを抱えることは希ではありません。

MMSEやHDS-Rなどの認知機能検査は、もっぱら医師や看護師、言語聴覚士などが話声でもって質問し行っていますが、補聴器装用の有無でMMSEのスコアが変化することが国内外の研究者から指摘されています。つまり、肉声による認知機能検査で適切な評価ができるかという問題につながるため、認知機能の評価にあたっては、あらかじめ聴力レベルの評価を行うことが極めて重要であり、そうした評価はだれでも行える簡便なシステムが求められています。(中川雅文、第2回認知症の早期発見予防治療研究会抄録,2015)