認知機能のアセスメントについては、これまで「紙と鉛筆」で机上で行う検査が一般的でした。しかし近年、海外では「紙と鉛筆」を用いるテストに代わって、様々なコンピューター化されたテストやテストシステムが開発され、認知神経科学と臨床試験で広く使用されています。(Wild K,et al:Alzheimers Demene.,4:429-437,2008)
軽度認知障害の評価を目的にデザインされたものが、多くCANTAB(Canbridge Neuropsychological Test Automates Battery),CNTB(Computerized Neuropsychological Test Automates Battery),Cog-Stateなどがあります。

コンピュータ化されたアセスメントツールに関して、認知障害のある高齢者のコンピューター操作能力や、それを前にしたときの緊張や不安などから受容しにくいことは気がかりと指摘されています。
ただ、軽症の認知症や軽度認知障害に使用するには問題がないとされており、神経心理学の専門家が実施しなくても施行可能であることなど利点が大きいとされています。(Wesnes KA:Alzheimers Res.Ther.,6:58,2014)

日本では現在はコンピュータ化されたアセスメントツールの利用には保険診療で認められていないこと、導入費用が必要であることが普及が遅れている要因ですが、患者の生活機能の観点でどのような意味をもつかなどのテストの妥当性を確立することが今後の課題とされています。(森悦朗,医学のあゆみ,257(5):403-409,2016)

国内で開発されたICTを用いた認知機能アセスメントツール

わが国では、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血血管性認知症などの認知症の人が462万人(厚労省2012年推計)と推計されていますが、団塊の世代が全て75歳以上となる2025年には多い場合で730万人となり、高齢者の5人に1人に上ると報じられています。

また、高次脳機能である認知機能に生まれつき問題を抱える発達障害、脳損傷などによる高次脳機能障害、子どもから大人まで何らかの認知機能の問題を抱えた人々は近年増加傾向にあり、診断やアセスメントを行うことができる人材の育成と確保が追い付いていない状況にあります。

ICTを活用したアセスメントツールは、既に児童の発達障害や、交通事故などを原因とした高次脳機能障害のリハビリテーション分野での研究実績があり、現在も現場で活用されています。今後は、各大学や研究機関との共同研究によりさらにエビデンスを積み上げ、認知症の早期発見システムの確立をめざしています。

地域包括ケアにおける認知機能の見える化システム

クラウドサービスにより、本人や家族はもとより、かかりつけ医だけでなくケアマネ、介護施設や保険薬局、地域包括支援センターでの認知機能のデータの共有化・見える化が可能になり、必要な対処につながります。

また、遠方に住む家族にとって本人の認知機能の把握が可能になり、認知機能の経時変化から医療や介護に対する適切な対応を早めにとることができます。

認知機能のバランスには個人毎の特性がみられ、健常者またはプレ・クリニカル期にある人は、将来の認知機能低下リスクを把握することで、認知症予防に対する必要な対処が可能になります。

軽度認知障害(MCI)と判定された方は、MMSE等の神経心理テストや画像検診を毎月通院して行うことが困難な現状を考慮すると、日々の認知機能のアセスメントや認知症予防を目的としたトレーニングを自宅で行うことにより、経時変化の把握や再診時の問診につながります。

初期の認知症患者の方に対しては、「認知機能を見える化」することで、残存する認知機能と衰えている認知機能を本人・家族がデータを共有し、できる事・できない事・どうすればできるか等の共通認識を持ち、介護の重度化の防止が可能になります。

◎暮らしのヒント 支援のポイント  ~ 地域でのケアに活かす ~
 高齢化率と高齢者の増加に伴い、今後、さらに認知症の方は増加します。現在、認知症になっても住み慣れたまちでいつまでも安心して暮らせる地域社会づくりのために「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。
 地域包括ケアシステムでは、医療・介護の専門職が連携をして地域の高齢者の生活を支えますが、それだけでなく、地域住民がお互いにできることをしながら助け合える「互助」の社会の実現が必要です。
 ここで大切なのは、地域社会の中で「助けられる側」「助ける側」という分けられる立場をとるのではなく、住民が「できることをする、協力する」という、社会参加につながる体制をつくることです。
 ところで、高齢になり、認知症になった際に、何ができて、何が難しいのかを知ることは大切です。その状態を知ることにより、難しい点に配慮した支援が行えることはもちろんですが、地域や家庭の中でも「できること」を継続することによって、身体を動かして廃用症候群を防ぎ、人の輪の中に入り交流をすることで心地よい刺激が得られます。
 認知機能の状態を知ることは、何ができるのか、何が難しいのかを知るためのヒントになります。例えば、記憶力が低下している場合と、空間認識力が低下している場合には、手伝ってほしいことや、まだまだできる事は違いがあります。
「お互い様ね」と、ご近所さんと協力しあえる地域社会づくりに、認知機能について考えてみませんか?

 

アセスメントツールと認知機能評価(MMSE)との相関

48名(男性19名、女性29名)の高齢者(63歳~82歳)を対象にアセスメントツールを用いて認知機能評価を行い、認知症の標準的なアセスメントに用いられているMMSE(ミニメンタルステート検査)と、Orientation(見当識のタスク)、mTMT(視覚探索:注意力のタスク)、Route 99(ルート99:計画力のタスク)、Just Fit(ジャストフィット:空間認知力)の4つのタスクに相関があることが認められました。(Manami Honda,et al,Jikeikai Med J ,57:1-4,2010)

12のタスクと認知機能

アセスメントの詳しい説明はこちら「見える化研究から生まれたCogEvo