脳機能画像研究法の技術発展は、認知機能の神経学的な基盤に関する研究へと急速に応用され、今日、認知神経科学あるいは認知神経心理学の発展に寄与しています。(Gazzaniga,M.S,The Mit Press.2000)

精神疾患を理解するためには、どのような精神症状が脳のどのような形態的・機能的変化と関連しているのかを探求することが不可欠です。このような精神疾患の神経基盤を探る試みは、1980年代のMRIの登場により、人体に対して侵襲のない研究手法を利用出来るようになったことで、飛躍的な発展を遂げています。

機能的MRIとよばれる手法では、神経活動にともなってMRIの信号強度が変化することを用いて、様々な心理学的課題を遂行中の患者・健常者の脳活動を調べ、それにより特定の心理的機能に対応する脳領域を調べることが出来ます

このような脳機能画像研究の進歩は、複雑な脳神経のネットワークを解明するとともに、精神科臨床の現場において、疾患ごとの特異的な所見を確立することにより、精神疾患の診断や症状の評価に貢献してきました。

磁気共鳴機能画像法(fMRI)

子どもと成人を対象に語想起課題遂行中にfMRIによる測定を実施した結果、Broca領域と左前頭前野背外側で有意な活性化が認められた。(Gaillard,W.D.et al:Human Brain Mapping,18,176-185,2003)

自閉症スペクトラム障害(ASD)のミラーニューロンの異状を検証した研究で、自閉症児は下前頭回でのミラーニューロンが活性化していないことがfMRIによって確認され、ミラーニューロンシステムの機能異常はASDにみられっる対人障害の基礎となっている可能性を示唆した報告があります。(Dapretto,M,et al,Nature Neuroscience,9:28-30,2006)

ミラーニューロンとは:霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動する時と、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞。ヒトの研究により模倣、言語、意図理解、共感性に深く関与していると言われている。

光トポグラフィ(NIRS:Near-infraed spectroscopy)

光トポグラフィは近赤外線を用いて生体のヘモグロビン濃度を計測し、それにより局所の血液量を推定し、測定部分の機能を検討する方法です。(福田正人ら,臨床精神医学、33 Suppl;584,2004)

光トポグラフィは、照射された近赤外線の脳内での光路長がわからないために、得られる値は絶対値であることや、空間分解機能が低くPETやMRIのように脳深部の測定は困難であることなどの端緒もありますが、繰り返し測定可能であることや自然な姿勢での測定があるなどの長所もあり、様々な研究に用いられています。

頭部に装着したプローブから異なる波長の近赤外光を照射し、頭蓋内の酸化ヘモグロビン(oxy-Hb)と脱酸化ヘモグロビン(deoxy-Hb)、これらの和であるそうヘモグロビン(total-Hb)を求めることができます。

認知機能の中で中核になる記憶や注意に関して光トポグラフィー検査との関係を調べた研究に関していくつか報告があります。

ワーキングメモリをターゲット課題とした光トポグラフィ研究として、健常な大学生を対象に二重課題を実施し、前頭部領域を撮影した報告では、左半球の背外側前頭前野において酸化ヘモグロビン(oxy-Hb)の値が優位に増加した。(阿比留睦美ら,作業療法:30:593,2011)

注意課題、記憶課題において、背外側前頭前野(DLPFC)を中心として多様な前頭前野領域の酸化ヘモグロビンの活性化がみられた。(堀田章悟ら,精神科:25(3):277-282,2004)

脳機能との関係について

脳画像研究において、個人差と脳機能・脳形態との関連を明らかにする研究が増えており、視覚や聴覚からの情報処理や認知訓練などと脳の関連を磁気共鳴画像法(MRI)などを用いたものについての報告があります。

視覚処理、音韻処理、言語処理を総合する高次で複雑な脳機能を必要とする読書は、広い脳領域が関わっています。(Ben-Shachar M:Curr Opin Neurobiol,17’2):258-270,2007)。また、子どもの読書習慣と神経線維の発達的変化を調べた研究では、より読書をする子ほど左弓状束(音韻処理等に関係)や左前頭ー後頭束(言語理解等に関係)の神経連絡がよくなっていいると報告しています。(Takeuchi H:Neuroimage,133:378-389,2016)

また、若年成人において、作業記憶の訓練が脳の構造的・帰納的連絡を高めることが確かめられています。(Takeuchi H et al,J Neurosci,30(9):3297-3303,2010)

高齢者については、複雑な情報から要点を推論する認知訓練を3か月間行うと、脳血流量が増え、脳部位間の帰納的・構造的結合が高まることが示されています。(Chapman SB et al,Cereb Cortex,25(29:396-405,2015)

<発達障害(ASD)にける感覚刺激入力時の反応異常>

脳磁図(MEG)を用いた研究では、ASD児は触覚刺激が入った時の第一次体性感覚野の反応が弱かったことが指摘されています(Marco et al. Autism Res.;5(5):340-51. 2012)。

聴覚過敏があるASD児でも、脳磁図(MEG)を用いた研究で聴覚刺激に対する聴覚野のM50成分が増加していたことがわかっています(Matsuzaki et al.,PLoS One. 23;9(7):e102599. 2014)。

機能的MRI(fMRI)を使った研究で、感覚刺激に対する過反応が見られるASD青年は、第一次感覚野と扁桃体の活動が有意に高く、過反応がない群に比べ刺激に対する慣れが起こりにくかったことが報告されています(Green et al.,JAMA Psychiatry. 72(8):778-86 2015)。

一方、体性感覚刺激、視覚刺激、聴覚刺激の際のfMRIのBold信号には定型発達と差がなかったものの試行間の差が大きかったこと、これが症状の強さと負の相関を示したことがわかっています(Dinstein et al.,Neuron. 20;75(6):981-91 2012)。

摂食障害の脳機能画像

摂食障害では、ボディイメージの歪みといった身体認知の問題や事故の否定的日の問題が認められており、疾患特徴的なものは栄養失調の重さではなく、それと結びついた身体増の歪曲えだるとされています。(Bruch H:Psychosom Med,24;187-194,1962)

食物認知に関する研究は、食物写真の刺激に対する脳の反応性をfMRIでみたものが多く、食物刺激により両側扁桃体、腹内側前頭前皮質が賦活化され、高カロリーの食物刺激では前頭前皮質が賦活され、カロリーの違いによって報酬制や動機づけの程度が異なったとの報告があります。(Killgore,W.D.S et al:Neuro Image,19;1381-1394,2003)

(※1)fMR(I Functional MRI=磁気共鳴機能画像法)

MRI(Magnetic resonance imaging=核磁気共鳴画像法)を改良したもので、リアルタイムで脳内の状態を映像として見ることが可能です。

(※2)遺伝子にコードした蛍光色素を使って神経活動を可視化する手法で、この方法を用いると、ニューロン同士の接続や特定のニューロン集団の機能を“見る”だけでなく光のスイッチを切り換えて、ニューロンを遠隔操作することもできます。具体的には、ノーベル化学賞を受賞した下村脩博士の発見した緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子に手を加えて、神経伝達物質や電圧、カルシウム濃度などの変化を検出できる光感受性タンパク質を作り、これらの分子をニューロンに組み込んで光を発する分子センサーとして用いることで、神経ネットワーク内の情報処理を追いかけるというものです。

(※3)fNIRS(Functional near-infrared spectroscopy=近赤外光脳機能イメージング装置)

頭の表面から光を当てることで、脳内に流れる血液量の変化を計測して脳表面の活動状態を「見える化」する技術です。具体的には、血液のなかに含まれるヘモグロビンの鉄分量を測定します。脳表面上の活動状態しか測定できませんが、fMRIより安価な手法です。